「ビンボー」を「選択」できた幸福

バブル期は「バリバリ稼いでリッチなアーバンライフを」というのが東京の若者のマジョリティ・スタイルだった。いや、高額時給のバイトなんか山ほどあったから、フリーターだってハワイ旅行程度はフツーに楽しめたのだ。

けれどもリッチの、ゴージャスのという価値観ばかりがもてはやされると、その逆のスタイルに惹かれる人間というのも当然出てくるわけで。そうした面々から支持を受けていたマンガに『大東京ビンボー生活マニュアル』(前川つかさ)というのがあった。連載時期は1986~1989年だから、まさにバブルの真っ只中だったわけだが、主人公の「コースケ」は根拠なく浮かれる世間とは隔絶したボロアパートに住まい、湯沸かしポットでスパゲティを茹でたりしていたのである。

かくいう僕もその頃は、今の恵比寿とは別世界みたいにさびれた恵比寿の「四畳半トイレ共同アパート」でくすぶり、コースケみたいなプータロー暮らしをしていた。なんと冷蔵庫もなかったけれども、それでも特に不自由さは感じなかった。「アクセク働いて金持ちになる」より「最小限だけ働いてノンビリ生きる」ほうが気楽でいいや、と思っていたのだ(というか、今もそう思っている)。「リッチマン」と「ビンボー人」、どちらになるのか「自己選択」できたのは、今となってはとても幸福な(豊かな)状況であったと思う。

『大東京ビンボー生活マニュアル』は、近年になってコンビニ売りの廉価本として再販されたらしい。けれどもビンボーを「選択できた」時代に描かれた作品が、ビンボーを「余儀なくされている」時代の若者の目にどう映るんだろうか? とも思う。まァ、作品自体はいま読み返しても面白いので、多分それなりに楽しめるだろうけどネ。

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